先週、娘の通うオンライン高校 Brisbane School of Distance Education(ブリスベン・スクール・オブ・ディスタンス・エデュケーション) の卒業式がありました。オンラインの学校とはいえ、卒業式や試験などの大切な行事は実際の会場で対面式に行われます。スクリーン越しではなく、同級生や先生たちと直接会える貴重な日。その特別な時間を娘と一緒に迎えられたことが、とても感慨深い瞬間でした。
授業自体はすべてオンラインで、自宅はもちろん、ネット環境さえあれば世界中どこからでも受けることができます。在校生の背景は本当にさまざまです。
娘のようにスポーツをメインに生活しているため通学が難しい生徒、近くに学校がない遠隔地に住む子どもたち、学校という環境に馴染めず不登校になった生徒。日本で生活をしながら授業を受ける生徒もいました。
それぞれの事情やペースに合わせて「学ぶ形を選べる」のが、この学校の大きな魅力です。オンラインの高校と聞くと、近代的で新しい教育システムを想像されるかもしれません。しかし実は、BSDEはQLD州立(クィーンズランド州立)で 1922年設立の、100年以上続く歴史ある学校です。
■ 1922年:誕生
当時は「Queensland Correspondence School(クイーンズランド通信学校)」として発足しました。通学が困難な地方・僻地の子どもたちに教育を届けるため、郵便による課題のやり取りで学ぶ“通信教育”から始まっています。
馬車や汽車の時代、学校に通えない子どもは多く、「教育は都市部だけのものではない」という理念のもと、この学校は生まれました。
■ 1960〜70年代:ラジオ・郵送授業の時代
通信教育は郵便を中心に進みつつ、後にはラジオ放送を使った授業も取り入れられ、少しずつ「遠隔教育」の形が広がっていきました。
■ 1989年:現在の学校制度へ
1989年には教育システムが再編され、「Brisbane School of Distance Education」という名称となり、現代の学校形態へと姿を変えます。それまでの郵送中心から、より個別学習をサポートする仕組みが整えられました。
■ 2005年前後:オンライン化への転換期
2000年代に入ると、電話を使った授業が導入され、2005年頃にはオンライン学習が本格的にスタート。徐々に教材のデジタル化が進み、現在の「フルオンライン授業」が確立されていきました。
100年の歴史を通して、「距離」や「環境」に左右されない学びを届けることに取り組み続けてきた学校です。
2004年にオーストラリアへ移住した当初、私はどちらかというと「ネット環境やデジタル化は日本の方が進んでいる」と思っていました。しかし、娘が BSDE に通う姿を見て、オーストラリアの「教育の柔軟性」と「多様な学びを受け入れる姿勢」に驚かされています。
家庭の事情、住む地域、得意なこと、課題となること。どんな背景があっても、「学ぶことを諦めなくていい」仕組みが100年以上前から存在している。
これは、オーストラリア教育の強さだと感じます。距離や環境に縛られず、それぞれのペースで、それぞれの未来へ向かって進める場所。そんな温かい場所だと感じました。
ここから旅立つ生徒たちの未来が楽しみです。
